食べ聞かせ



「いかなごの釘煮」

いかなご釘煮
私は大阪生まれの大阪育ちで、現在も大阪在住なのですが、
以前3年間ほど神戸に住んでいたことがありました。
春先になると、スーパーに特設のワゴンが設置され、
業務用の酒、みりん、醤油、ざらめ糖、タッパーなどが並べられます。
最初、何の為の材料なのか全くわからなかったのですが、
よくよく見てみると、そこには「いかなご釘煮セット!」と書いてあります。
「え!兵庫の人は釘煮を家で作るの?」と驚いたのを今でも覚えています。
だって大阪では生のいかなごがキロ単位で
スーパーに売っているなんてことはありませんでしたから…。
お隣の県で、食文化もさほど変わらないと思っていた兵庫県だからこそ、
当時の私にとってはそれは新鮮な驚きでした。
 
いかなごの釘煮とは、兵庫県(特に瀬戸内側)の郷土料理で、
いかなごを甘辛く炊いたものです。
出来上がりの色や形が、錆びた釘のようだというところから、
『釘煮』と名づけられたそうです。
いかなごは春先に産卵を迎える魚で、地域や大きさによって
「しんこ」「ふるせ」「こうなご」などと呼び名は変わります。
2月後半あたりから4月までの間いかなご漁が解禁になり、
体長2〜3cmの稚魚が釘煮に利用されます。
 
足がはやいので、おいしい釘煮を作ろうと思うと、
午前中に買いに行ってすぐに調理するのがいいそうです。
閉店間際のスーパーで、半額シールが貼られた
「いかなご」なんてもってのほか!!と、現地の人に聞いたので、
私は土曜日の朝を狙ってに意気揚々と商店街に向かいました。
 
当時で1キロ700円から900円くらいだったでしょうか。
それを、皆さん5キロ、10キロと買って行かれるのです。
私は1人暮らしでしたし、初めての釘煮に挑戦するわけですから
失敗したら困る、ということで無難に1キロを購入しました。
おそらくお店の人の手書きであろう、
『いかなご釘煮の作り方』と書いたコピー用紙を手渡されました。
たぶん、私の慣れない雰囲気から「コイツは初心者だな」と思われたんだと思います。
 
とりあえず家に戻り、渡されたレシピを見ながら見よう見まねで作ってみました。
私は市販の釘煮の山椒の効き過ぎた味がいやなので、
実山椒は控えめに。醤油も控えめにしてあっさりと・・・。
しかし、出来上がったのはとても釘煮と呼べるような代物ではなく、
ただのジャコの煮物のような仕上がりでした。
やはり「釘煮」にするからには、ある程度の調味料が必要で、
それにより日持ちがして保存食になるんだなと思いました。
やはり昔から伝わっているものを、むやみやたらに変えてはいけなかった…。
 
そう反省し、翌週に再度チャレンジ。
2回目はレシピに忠実に作り、見事な釘煮が出来上がりました。
一度コツを掴むと、何となく調味料の量を自分で調節できるようになり、
2回、3回と毎週のように作る内に、私の味の釘煮というものを作れるようになったのです。
それから約3年間、神戸にいる間は毎年春になるとたくさんの釘煮を作って、
実家に送ったり、友人におすそ分けしたり、釘煮を使ったレシピを考えたり・・・と、
色んな楽しみを見つけました。
 
今年ももうすぐ、いかなご漁が解禁になります。
今年はどんな釘煮を作ろうかと、今からとても楽しみです。
 


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