食べ聞かせ



初夏のかおり 「梅」

初夏のかおり 梅
梅雨の季節になると、私の実家は家中にふくよかな梅の実の香りが溢れていました。

母が梅干用にと買ってきた、たくさんの梅の実。

子供達は爪楊枝を手渡され、梅の実のヘタを1つずつ取るのを手伝います。
子供心にその大きな丸々とした梅の実はとっても美味しそうで、こっそり齧ってみたり・・・。
あまりのエグ味と酸味に顔を歪めた私を見て、母が笑っていました。
 
塩漬けのあと土用干しにされた梅の実は、あの愛らしい姿からは見る陰もなく
シワシワになり、あのふくよかな香りも嘘のように消えてしまっていました。
しばらくすると、今度はたくさんの赤紫蘇が台所に溢れます。
紫蘇漬けにするのに、母が大量に買ってきたものです。
たらいに入れた赤紫蘇を、母は大きな手で揉みます。

少量ずつに分けて、何度も何度も揉みます。

母の手が紫蘇で紅く染まります。

母が赤紫蘇を揉んでいる姿は、二十年以上経った今でも鮮明に思い出すことができます。

 
お弁当を開けると、必ず目に飛び込んでくる、
鮮やかな紅い大きな大きな梅干。
市販の梅干よりもずっと酸っぱくて、塩辛くて、
食べると顔が「う〜っ」っとなる母の梅干。

今はただ懐かしく、温かい気持ちにさせてくれるあの梅干。

 

「青い梅には毒があるから生で食べたらあかんよ」

「梅干には殺菌効果があるから、お弁当が腐りにくくなるからね」

「『梅はその日の難逃れ』」

「熱が出た時には梅茶を飲むと食欲が出るから・・・」
「車酔いしないためにはおへそに梅干を貼りなさい」
 

そんな言葉達が、あの母の梅干の味とともに

今も私の心の奥に根付いています。


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